泉鏡花「外科室」あらすじ・解説・考察 わかりやすい訳・語釈付き! | LI techno  

泉鏡花「外科室」あらすじ・解説・考察 わかりやすい訳・語釈付き!

このページでは、泉鏡花の小説「外科室」についてのあらすじ・解説をしていきます。エロチックな描写がないのにも関わらず、耽美な雰囲気と緊密な空気が感じられる美しい作品です。

あらすじ

画家である私は、絵の勉強という名目で、かねてから興味のあった友人である高峰医師の手術に同席させてもらった。いざ手術が始まろうという時、高峰医師の担当患者の貴船伯爵夫人が麻酔を打たれるのを拒む。看護師や主人の言うことも聞かない。夫人曰く、「自分の心には決して誰にも言えないような秘密がある。眠り薬を打たれると、うわ言でそれを言ってしまうのが怖い」と麻酔を決して受け入れない。急を要する手術のため、高峰医師は麻酔を打たずに手術を開始する。夫人は、手術中指一本動かさず痛みに耐えていたが、胸の深いところにメスが達したところで、「あなたは、私を知りますまい!」と叫び、自らの胸をメスで抉り、死んでしまう。同日、高峰医師も自ら命を絶つ。実は、高峰と夫人は9年前すれ違い、偶然にもお互いに一目惚れをしていたのだった。

泉鏡花「外科室」 青空文庫 ↓
https://www.aozora.gr.jp/cards/000050/files/360_19397.html

 

語釈

この作品は、作者の死後から70年経っているので、青空文庫に載せられています。青空文庫で無料で読めるので、ぜひ読んでみてください。擬古文体で少し難しいと思うので、語釈を付けました。
頤・・・アゴ
陵羅・・・薄い絹。 (陵羅にだも堪えざる・・・薄絹にすら耐えられないほどか細い、儚い)
森寒・・・大変な恐ろしさ。

考察

名づけ・象徴
「貴船」と聞くと、みなさん何を思い出しますか?私は京都の有名な龍神系の神社を思い出しました。つまり、貴船=水というイメージがあります。水の女といえば、ファム・ファタール、男を無意味に惑わす悪い女の象徴です。夫人なのだから、貴船という苗字は旦那のものなのでは?と思う方もいらっしゃるでしょう。
しかし、貴船夫人だからこそ背徳を感じるのです。貴船夫人がもし結婚していなかったら、高峰とよろしくなっていたかもしれませんし、そこに背徳はありません。

手術のシーン
「雪の寒紅梅、血汐ちしおは胸よりつと流れて」とありますが、真っ白な肌の上に真っ赤な血が流れ出る様子、これはまるで破瓜の描写のようではありませんか?また、高峰が「痛みますか」と聞くシーンもそれを連想させます。私は確実に泉鏡花が意識してこのシーンを書いていると思います。

高峰と夫人の関係
「下」で、「私」と高峰が小石川の植物園に訪れるシーンがあります。植物園で高峰はまだ若い夫人とすれ違います。そして、「真の美人を動かすこと、あの通りだ」と一言漏らし、元々謹厳な人柄でありましたが、それからはいっそう勤勉になり、それなりの地位や年齢になっても決して妻を娶りませんでした。全編通して高峰の心情は描かれていませんが、小石川で夫人とすれ違い、一目惚れをして一途に思い続けていると読める描写がされています。

そして、夫人もその時に高峰に一目惚れをしていたと考えられます。結婚し、子供も出来ましたが、それでも高峰のことを忘れられず、偶然か必然か高峰医師に手術を担当された夫人。高峰になら殺されてもいいという激しい恋心が読み取れます。「あなたは、私を知りますまい!」というセリフから、夫人は自分が一方的に高峰を愛していると考えているようです。そして、高峰はその時夫人から自分への愛を自覚し、同じ日に心中するように自殺してしまいます。

感想

この小説は、全て「私」の視点で描かれています。「私」は主人公でありながら全くの部外者。そのため、高峰や夫人の感情は全く描写されません。そこが、この小説のミソなのではないかと思うのです。夫人が何を思って自殺したのか、友人高峰がどうしてその後自殺したのか…。一目惚れした2人が、心中するかのように同日亡くなった、というのも主人公である「私」の解釈でしかありません。なので、現実的の物事をとらえる人は高峰と夫人が偶然出会うわけがない、ひとめぼれというのは「私」の勘違いだ、という感想を持つ人もいるでしょう。
しかし私は非常にロマンチックな小説であると思いました。泉鏡花じたい、耽美派の人間なのもありますが・・・。
また、最後の小石川庭園で登場したモブっぽい男性の会話ですが、古文を専攻している私でも完全に意味が理解できませんでした。とりあえず、夫人の美しさと、そのほかの女性の醜さを比較していると思われます。

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